名前がユノの腕の中で抱かれ喘いでいることを考えるだけで。
胸が焼け付くように熱い。苦しい。
あいつを掠め取ったのは俺だ。それはわかってる。わかって、いても。
その夜、名前は帰ってこなかった。もしユノといるなら、取り返したい。
ユノだってもう、名前が俺のものになっていると分かっているはずだ。それなら、なぜ名前をまた俺から奪い返そうとするんだ。
電話しないようにずっと我慢してた。抱かれながら電話に出られたりしたら、立ち直れない。
明日は仕事だ。日付を越える前に確認しておきたかった。ユノとは明日も会わない。だからこそ。
電話をかける。一度かけてしまったら、出るまでかけずにはいられなかった。
何度かけても、名前は電話に出なかった。留守電に切り替わることすらなかった。避けられているのか。ユノと、いるからか。疑念は確信になり、確信は嫉妬に、嫉妬は憤怒となり俺をがんじがらめにする。我慢などできるはずもなく、だからといってどこにいるかもわからないふたりの寝室に踏み込むことはできず、俺は。
ユノに電話をかけた。
「名前は、どこにいる」
「・・・帰ったんじゃ、ないのか」
「どこへ帰るっていうんだ」
ユノはしばらく沈黙してから、声を絞り出すようにつぶやく。
「お前の、ところだよ」
しらじらしい。俺の女を抱いておきながら、よくもぬけぬけと。
でもきっとユノも同じことを思っているはずだ。口に出すことはできなかった。
「まだだ。まだ・・・帰らない」
まさか。いやな予感が頭をよぎる。
あの事故のようなことが、また、起きたら。俺のそんな思いを知ってか知らずか、ユノは深いため息をつく。
「俺と名前が会うのはきっと今日が、最後だ。はっきりと聞いたわけじゃないが、そう感じた。だから止められなかった」
「何の保証もないことを言うな」
「できることなら帰したくなかった。でも、誰のそばにいたいか、それは名前が決めることだ。俺たちが決めることじゃない」
「・・・だから、帰ったって言うのか。俺の・・・ところへ」
「俺はそう思った。いずれどういう形であれ連絡がくるはずだ。信じて、待てよ」
ユノの言葉にはもう、諦めが含まれていた。諦めというよりは、愛すればこそ相手の幸せを考える深い慈悲のような響きが。
それがあなたの、愛し方なのか。
俺は今すぐ名前を捕まえて不実を罵ってメチャクチャに抱きたい、のに。