テーブル越しに、見つめあうだけでも、まだ。
信じられなくて。
本当は、抱きしめられていたい。ずっと、そばにいたい。
・・・でも、そんなことをしてしまったら。
抑えきれる自信がなかった。きっと、今夜だけ。この短い時間だけしか。
一緒にいられないのに。それ以上を求めてしまったら、今よりもっと苦しくなる。
仕事は、している? お友達は、元気? そんな、ふうに。
当たり障りのない話だけを囁く、唇。その甘い声。
今は、していません。友達は、元気です。教科書みたいな回答しか、できなくて。
あ、何か、飲む? この空気が、苦しくて。
席を立ったのだと、思う。・・・何も。それだけ、言うと。
・・・そっか。かすかに微笑む、その顔がとても・・・いとおしい。
「聞いても、いいかな」
急に表情を強張らせて、私を見つめる。
何を言いたいのだろう? ドキドキしながら、頷くと。
ユノさんは、自分の襟元に手を入れて、ネックレスを引っ張り出す。
「同じ、かな。・・・俺のと」
また、泣きそうになりながら。
ユノさんと同じように、ネックレスを、引っ張り出す。
おそろいの、ロザリオ。あなたが、つけてくれた。
私のお守り。
こらえきれずに涙を、流すと。
「泣かないで」
ユノさんの声は、少し、涙ぐんでいる。
「泣かれたら、どうしていいかわからない。
帰せなく、なっちゃうよ。・・・いいの?」
ダメだと、わかっているのに。
どうしても涙が、止まらなくて。
「帰り、ます」
席を立って、急いでドアへ向かう。その大きな胸に、後ろから抱きすくめられて。
動けない。私を抱きしめる腕に、腕を重ねて。
指を、絡ませあう。泣き続ける私を、ゆっくりと振り向かせて。
額に、口付ける。その唇で、私の涙を受け止める。
私を見つめて、笑って。
「ダメだ、やっぱり。・・・帰せないよ」
触れるだけの、優しい口付けのあと。
少しこわばった顔を、して。
「帰さない」